日本熱帯医学会学生部会(J-Trops) 東京合宿2025
2025年8月31日 作成
概要
J-Tropsでは2年前より、夏季休暇を利用した合宿を企画しています。合宿は、メインの活動であるオンライン勉強会を補完する実地研修としての役割や、学生同士の対面ならではの深い議論や交流を目的としています。本年度は「将来、感染症分野や国際保健に携わることを志す会員が、具体的なキャリア像を描くための機会を得ること」をテーマとし、国立健康危機管理研究機構と東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻を訪問しました。
本合宿では、感染症や国際保健の様々な分野にて第一線でご活躍なさる先生方から、貴重なご講演や面談の機会をいただくことができました。全国から13名の学生が参加し、プログラムや学生間の議論を通じて、最新の研究を学ぶことができたほか、今後の学習における指針を得ることができました。
活動報告
8月16日(土) / 8月22日(金)
事前ワークショップ「10年後の理想のキャリアから逆算し、合宿での個人目標を考える」
J-Trops OG 山崎里紗先生にご講演いただきました。
8月24日(日)
国立健康危機管理研究機構(JIHS) 国立国際医療研究所 熱帯医学・マラリア研究部訪問
狩野繁之部長よりご講演および面談の機会をいただきました。実際にマラリアの検査が行われているラボを見学した後、マラリアの歴史や、近年の気候変動およびグローバル化による感染拡大についてお話を伺いました。また、先生がマラリアと闘う様子をご自身で表現された書を拝見し、マラリアという一つの病が古くから人々の生活や文化と結びついており、その撲滅が古代からの悲願であり続けてきたことを学びました。
その後、狩野先生にもご参加いただき、懇親会を開催しました。
8月25日(月)
JIHS 国立感染症研究所訪問
- 国立感染症研究所について 野田博先生(研究企画調整センター長)
- 病原体ゲノム解析研究センターの業務について 堀場千尋先生(病原体ゲノム解析研究センター室長)
- 感染症危機管理研究センターの業務について 齋藤智也先生(感染症危機管理研究センター長)
研究所の概要から現在の活動内容に至るまで、3名の先生方に詳しくご説明いただきました。野田先生からは、今年4月に新しく改編されたJIHSの沿革から、研究所が担うNIH・FDA・CDCという3つの機能に至るまで、丁寧に解説していただきました。堀場先生からは、病原体ゲノム解析センターが医療の中でどのような役割を果たしているのか、また実際に検査を行う際の心得について教えていただきました。齋藤先生からは、感染症危機管理センターの役割や、いつ発生するか分からない感染症災害への備えの重要性について説明を受けました。さらに、キャリア形成においては主体的に行動を起こすことや自己評価の重要性についてもご教授いただきました。3名の先生方に多様なキャリアを紹介していただき、新たなキャリアの選択肢を知ることができました。
野口英世アフリカ賞受賞者 アブドゥライ・ジムデ博士 講演会 聴講
「defeating drug resistant malaria in Africa: a journey from field discovery to policy impact」
講演を通じて、マラリアによる死者の大半がサブサハラアフリカに集中している現状と、ジムデ先生のご活動について知ることができました。マラリアの現状として、地域間でのマラリア原虫の遺伝的差異、薬剤耐性マラリア、診断キットで検知が難しいマラリアなどの問題をご紹介いただきました。対策の面では、研究機関間のネットワーク構築の重要性や、研究者が政策立案に関わる必要性が指摘されました。また、学生の「研究を始めた理由」に関する質問に対し、幼少期にマラリアによりご家族を亡くされた経験を教えていただき、現地におけるマラリアの脅威を改めて認識しました。
JIHS 国際医療協力局 訪問・面談
宮野真輔先生(連携協力部 連携推進課 国際連携専門職)
先生のキャリアについて伺うとともに、ケーススタディを通して低中所得国の医療分野の課題解決の実際を学びました。特に、JIHSの国際医療協力活動におけるJICAやWHOとの協働のあり方を理解することができました。また、課題解決に至るまでの手順やプロセスについても具体的に学ぶことができました。
JIHS 国際感染症センター(DCC) 見学・面談
大曲貴夫先生(センター長)/氏家無限先生(トラベルクリニック医長・予防接種支援センター長)
お二人のキャリアや臨床のお話を伺いました。その中でも特に「様々なキャリアを積む中でも臨床の現場を知ることが最も重要である」というお話が印象に残り、将来のキャリアパスを考える上で大きな参考となりました。その後、全国に10床あるうちの4床をJIHSが有する特定感染症病床を見学し、感染拡大の封じ込めを行うための多くの機能が備えられていることを理解しました。
8月26日(火)
東京大学大学院医学系研究科 国際保健学専攻訪問
国際保健政策学教室 橋爪真弘先生
気候変動が健康格差を拡大させる実態についてご説明いただきました。暑熱関連死は今世紀末までに全国で2〜4倍に増加すると推計されており、社会的認知度を高める活動や政策の有効性を科学的に検証する取り組みが進められている現状を学びました。研究面では、時系列データを用いた回帰分析により気温と死亡者数の関係を評価し、救急搬送データや死亡統計など多様なデータが活用されていることを学びました。また、IPCCレポートの執筆への貢献など、国際的な知見の体系化にも携わっておられることを教えていただきました。
国際地域保健学教室 桐谷純子先生
教育・研究内容の説明を受け、学生や研究者の活動状況を知ることができました。コミュニティレベルでの一次収集データを用いるフィールドワークを重視しており、実践的研究の重要性を学ぶ貴重な機会となりました。また、多様な背景を持つ学生が在籍しており、ワークライフバランスへの配慮がなされている点が印象的でした。
生物医化学教室 Ghulam Jeelani先生
最新の実験機器について説明を受けるとともに、培養されているリーシュマニア、マラリア原虫、アメーバなどを顕微鏡で観察させていただきました。
人類遺伝学教室 藤本明洋先生
ヒトゲノム解析を通じて感染症研究が行われており、遺伝的要因の解明や治療法開発に活用されていることを学びました。国際保健における基礎研究の重要性を改めて理解する貴重な機会となりました。
発達医科学教室 Moi Meng Ling先生
約30分間の質疑応答を行いました。先生は自身のデング熱罹患経験から研究を志した経緯や、デング熱ワクチン開発に伴うジレンマについて説明されました。学生の関心は高く、多くの質問が飛び交う活発な訪問となりました。
合宿終了後ワークショップ
「合宿の達成度を振り返り、1年先の目標を決める」
謝辞
本夏合宿の開催にあたり、国立健康危機管理機構訪問に関するご調整に際して熱帯医学・マラリア研究部部長 狩野繁之先生に、東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻訪問に関する調整に際して国際保健政策学教室教授 橋爪真弘先生に、多大なるご尽力を賜りました。また、ご訪問先のすべての先生方に丁寧なご指導を賜り、参加者一同にとって大変貴重な学びの機会となりました。
平素よりJ-Tropsの活動をご指導くださる顧問 山城哲先生には、準備段階から終始ご助力をいただきました。さらに、本合宿に対し、熱帯医学会会員の皆様からご支援金・ご寄付を賜りました。ここに関係各位のご厚情とご高配に、合宿参加者一同、心より厚く御礼申し上げます。
文責:髙木祐治(北海道大学医学部医学科3年)