チームメンバー
勉強会運営責任者
ワクチン担当
上杉優佳
東京大学医学部医学科5年
ワクチン担当
石原大翔
東京慈恵会医科大学医学部医学科3年
防蚊対策担当
葛島裕士
長崎大学医学部医学科3年
防蚊対策担当
高泉優
東京慈恵会医科大学医学部医学科5年
勉強会概要
勉強会の概要
第1タームではマラリアをテーマに取り上げた。熱帯医学の重要テーマの1つである「顧みられない熱帯病 Neglected Tropical Diseases: NTDs」の理解を深めるとともに、三大感染症としても重要な「マラリア」について学んだ。今年度は「予防」をテーマとし、マラリアの基礎、感染対策、治療/ワクチンの多角的な視点から学生勉強会を開催した。
勉強会の到達目標
専門家の講演については、「防蚊対策」「ワクチン」の2点について、先生方のご経験を交えた貴重なご講演をいただいた。学生勉強会では、マラリアの生活環などの基礎知識から臨床現場で使用される診断方法・薬剤まで、様々な視点から学ぶことで、マラリアについて横断的な理解を深めることを目標とした。
講演者一覧
感染対策分野講演者
長崎大学熱帯医学研究所 病害動物学分野
皆川昇博士
ワクチン開発分野講演者
国立国際医療研究センター熱帯医学・マラリア研究部
狩野繁之博士
勉強会日程一覧
1/23 20:00-21:00 基礎・防対蚊分野学生勉強会
2/1 20:00-21:30 皆川昇博士講演会
2/16 20:00-21:00 ワクチン/治療薬分野・臨床問題学生勉強会
2/24 19:00-21:00 狩野繁之博士講演会
勉強会報告
「防蚊対策」グループサマリー
2023年1月23日に行われたWeek1学生勉強会では、マラリア原虫および媒介蚊に関する基本的な知識を深めることを目標とした。
本年度最初のタームであることから、寄生虫や宿主の定義の説明から始まり、前半はマラリア原虫の種類、生活環、検査方法といったマラリア原虫に関する事柄を、後半はマラリア媒介蚊であるハマダラカや、マラリア対策について紹介した。蚊の体の構造、雌雄を肉眼的に見分ける方法や、その吸血行動などの蚊の生態に加え、ハマダラカにもいくつもの種類があり、その地理的分布や人吸血嗜好性、吸血場所・時間の傾向が異なることを学んだ。皆川先生のご講演に先立って、殺虫剤処理ネット(ITNs)や屋内殺虫剤噴霧(IRS)に関する対策やその課題、気候変動と感染症の関連についても紹介した。
2023年2月1日に行われたWeek2の専門家講演では、長崎大学熱帯医学研究所病害動物学分野教授である皆川昇氏をお迎えしご講演いただいた。皆川先生は、媒介蚊や気候変動予測モデルの研究をされている。今回、ケニアやマラウイを始めとした地域で数多くのフィールドワークをされているご経験を基に、防蚊対策の実情についてお話いただいた。
患者数の減少に最も寄与したマラリア対策は、殺虫剤処理ネット(ITNs)との報告があり、蚊帳の使用がマラリア対策において重要である。しかし、ベッドがないことや子供のみの家があることから蚊帳を正しく使用できないことや、家の作り、蚊帳自体を他の目的として使用してしまうことなど、現地の方々の生活に根付いた課題についても知ることができた。フィールドワークを通じて、蚊帳の共有人数が増えるとマラリアの感染率が上がってしまうことや、蚊帳の使用率が年齢が上がると減少することが明らかになっている。また、防蚊ネットを用いた新たな対策「殺虫剤付き天井蚊帳」についてもご紹介いただき、マラリア対策の実情とともに、その効果を科学的に評価することの重要性を改めて学んだ。皆川先生の現地でのご経験を踏まえた本講演を通じ、私たち学生にとって心躍るお話を伺うことができた。
文責
長崎大学医学部3年 葛島裕士
東京慈恵会医科大学医学部5年 高泉優
「ワクチン」グループサマリー
2023年2月16日に行われたWeek3の学生勉強会では、Week4の狩野先生の講演に向けた予習を兼ねて、現行のマラリア治療・予防薬とワクチンの開発に関して、学生2名の文献調査に基づく発表を行った。また、国家試験問題やUSMLEなどの臨床問題を扱いながら、マラリアの臨床診断や鑑別を取り扱った。
勉強会前半では、マラリアの感染機序を軽く復習しながら、治療薬、予防薬の紹介、メカニズムの解説を中心に扱った。日本ではあまり症例数が多くないものの、耐性株の出現などにより治療法は日進月歩変化しており、複雑化する治療体制をまとめ直す機会となった。勉強会後半では、マラリアに関する臨床問題ベースの解説を行った。国家試験問題やUSMLEなどからマラリア関連の問題を厳選し、実際に参加者とともに考えることによって、勉強会前半で得られた臨床の知識をアウトプットする機会とした。
2023年2月24日に行われたWeek4専門家講演会では、マラリアワクチンの開発に携わってこられた国立国際医療研究センター 熱帯医学・マラリア研究部 狩野繁之博士にオンラインで講演を頂いた。マラリアワクチンの開発に関して、開発を難渋させるマラリア免疫機構の解説、2022年11月にWHOに初めて認可されたマラリアワクチンmosquirixの機序、それをもとにした新たなワクチンの台頭と今後のワクチン市場について伺うことができた。マラリアをはじめとする熱帯感染症については、経済的問題やベクターコントロールなどの面からも、ワクチンの完成が非常に難しい。今回40年に渡り積み重ねられた研究により、開発されたmospuirixのお話からは、ワクチン開発や創薬の難しさを、先生のご経験からありありと実感することができると同時に、アカデミアと製薬企業、財団との連携の大切さを知ることができた。
文責
東京大学医学部5年 上杉優佳
東京慈恵会医科大学医学部3年 石原大翔
統括
本タームでは、マラリアの予防策に焦点を当て、最新の疫学研究に触れ、研究者の研究に対する理念やキャリアについても知る機会を得た。参加した学生にとっては、今後の自身のキャリアパス、また寄生虫に対する予防対策の未来を考える上で有意義な機会になったと考える。
謝辞
報告書の締めくくりにあたり、お忙しい中善意でのご協力を賜りました皆川昇先生、狩野繁之先生、また平素より学生団体の活動に際し、たくさんのご支援と応援をいただいております、日本熱帯医学会理事長 山城哲先生に、心からの御礼を申し上げます。