チームメンバー
勉強会運営責任者
臨床担当
髙泉優 東京慈恵会医科大学医学部医学科
基礎研究担当
上杉優佳 東京大学医学部医学科
基礎研究担当
葛島裕士 長崎大学医学部医学科
臨床担当
福田佳那子 山口大学医学部医学科
感染症疫学担当
無相遊月 横浜市立大学医学部医学科
感染症疫学担当
村山泰章 国際医療福祉大学医学部医学科
勉強会概要
勉強会の概要
エボラウイルス病は、稀ではあるものの重症化しやすい疾患であり,これまでコンゴ民主共和国、ギニア、ウガンダなどで度々アウトブレイクが報告されてた。致命率が高く、アウトブレイクのコントロールが大切となるエボラウイルス病に対して世界がどのように戦ってきたのか、その実情を学ぶことを目標とした。また近年、日本ではこのような致死的な感染症のアウトブレイクは見られておらず、日本において一類感染症が入ってきた場合の対応について専門家の方々のご経験から伺いたいと考え、本タームを企画した。
勉強会の到達目標
・エボラウイルス病の創薬について、基礎研究の視点から知る。
・エボラウイルス病のアウトブレイクが起きた際に現場で医療者としてどう対応すべきか学ぶ。
・感染症疫学がどのようなもので、エボラにおいてどのような研究がなされ、実際にどのように政策立案に生かされ、どのようなことが問題点となるのか学ぶ。
講演者一覧
基礎研究分野講演者
熱帯医学研究所新興感染症分野准教授
浦田秀造先生
臨床分野講演者
国際医療福祉大学 医学部感染症学教授
加藤康幸先生
勉強会日程一覧
6/9 20:00~21:00 基礎研究分野学生勉強会
6/16 20:00~21:30 浦田秀造先生講演会
6/30 19:30~20:30 臨床分野学生勉強会
7/4 19:00~20:30 加藤康幸先生講演会
7/15 20:00~22:00 感染症疫学分野学生勉強会
勉強会報告
「基礎研究」グループサマリー
6月9日に行われたWeek1では、そもそもウイルスとは何か?というお話から、エボラウイルスの概論、侵入機構、治療薬・ワクチンについて取り扱った。
6月16日に行われたWeek2専門家講演会では、長崎大学高度感染症センター人材育成部門の浦田秀造先生にご講演を賜った。前半では、薬学部卒業後ウイルスの分子機構の研究に進まれた浦田先生のご経験、また学生時代の過ごし方など先生のご経験に基づいた貴重なお話を伺うことができた。後半では先生のご研究テーマである、アレナウイルスやフィロウイルスなどの出血熱ウイルスの細胞内増殖機構についてお話いただいた。また現在建設中である長崎大学のBSL-4施設についてもご紹介いただき、ウイルスの基礎研究や熱帯医学研究所に興味のある学生にとって、楽しく興味深い時間となった。
文責
上杉優佳・葛島裕士
「臨床」グループサマリー
2022年6月30日に行われた学生勉強会では、エボラウイルス病に関する基本的な知識を深め、2022年7月4日に行われた加藤康幸先生によるご講演では、実際にエボラウイルス病にどのように立ち向かってきたのかその実情を学ぶことを目標とした。
学生勉強会では、エボラウイルス病の臨床症状・診断・治療や感染対策に関する事柄について学んだ。第一部では、エボラウイルス病の感染経路や症状の経過等について取り上げた。動物間で伝播しているエボラウイルスは、人がエボラウイルス保有動物との接触(Spillover Event)によって人間に感染し、葬式や家庭、医療現場等において、感染者の体液に触れることで感染が広がる。エボラウイルス病の症状の経過は、”dry to wet”と表現され、食欲不振や関節痛・頭痛、倦怠感といった非特異的な症状(dry)から、下痢や嘔吐などの消化器症状(wet)等に移行する。出血が伴わないことも多いことから、エボラウイルス出血熱ではなく、現在海外ではエボラウイルス病と呼ばれることが一般的になっている。第二部では、感染対策や治療法について取り上げた。感染対策においては、市民とのコミュニケーションや信頼を高めることが大切であり、文化や慣習を理解することが重要となる。治療に関連する事項として、ワクチンや抗エボラウイルス抗体や、Ebola Treatment Unitについて紹介した。また、エボラウイルス病がもたらす精神的負担についても触れ、金銭的負担や、精神科医や精神保健看護師の不足、入院治療できるインフラが整っていないなどの多くの理由から、メンタルヘルスサービスの提供が困難であることについて学んだ。
演者である加藤康幸先生は、国際医療福祉大学大学医学部教授、国際医療福祉大学成田病院感染症科部長として臨床・研究・教育としてご活躍されている。これまでにWHOのミッションにてエボラ出血熱の発生地である西アフリカに二度派遣をされている。派遣先では、院内感染事例の調査に着手された。医療従事者への二次感染が懸念され、スタッフが逃げ出し病院の機能麻痺が懸念される中、安全に現地の医療従事者が患者の治療にあたれるよう、個人防護具の着脱方法などのレクチャーを指揮された。エボラ出血熱の感染が著しい地域でのご経験をもとに、当時の混乱状況からどのように感染症の制圧に向き合ってこられたのか、また日本でもし同じようなアウトブレイクが起こった際には、医療者としてどう動くべきなのかを学ぶことを目標とした。
エボラウイルス病に対する現地での対応、また彼らの文化的背景を考慮した感染対策に関連する要素、そして先生が今まで歩まれたキャリアについてのお話をお伺いすることができた。現地での対応に関しては、実際に現地住民はエボラウイルス病に関する認識が薄く、マラリアに対する関心のほうが強かったことなどについて、現地でのエピソードやお写真を交えてお話いただいた。これらのお話は、ニュースなどで見聞きすることがなかなかできず、国際協力の全貌を垣間見たように思う。国際協力に関するキャリアを築いていきたい学生の一人として、“学生時代に医学に限らずより幅広いことに興味をもつことが大切だ”とのメッセージに勇気をいただいた。
Week3,4でエボラウイルス病の臨床像および合併症、更にはアウトブレイクの際の対応において優先されるべき事項など、感染対策についても言及しエボラウイルス病を“正しく恐れ、そして防ぐ”ことができるよう勉強を行った。講演会では実際に西アフリカにてその制圧に尽くされた加藤先生からお話をお聞きし、現地での葛藤を理解することができた。感染症の拡大はその地域の慣習に大きく寄与する。医学として感染症をとらえるのみならず、社会学としてもとらえることが重要であると学んだタームであった。
文責
高泉優・福田佳那子
「感染症疫学」グループサマリー
2022年7月15日に行われたweek5学生勉強会では、エボラの疫学と感染症疫学・感染症数理モデリングについての理解を深めることを目的とした。week1-4において、エボラの創薬の基礎研究や臨床に関わる勉強会が行われていたため、今回はヒト-ヒト伝播のある感染症であるエボラに特有の疫学の概念について、感染症疫学とその他の疫学分野との相違点も含めて発表を行った。また、エボラだけでなく現在流行しているCovid-19やサル痘についての最先端の研究も扱うことで、より理解を深めることを目指した。
まず、前半は、感染症疫学の観点からエボラの特徴や研究を学び、この分野の考え方に慣れることを目標とした。具体的には、感染症疫学研究を読み解く上での基礎知識を身につけ、またこの分野が公衆衛生学的なエボラ流行への封じ込め政策・介入にどのように役立ってきたかについて紹介した。エボラの自然史的性質については、その伝播性 (基本再生産数、実効再生産数、二次発症リスク) と病毒性 (感染致命リスクと症例致命リスク) について、重要な考え方が実際のエボラの研究論文でどのように用いられているかを確認し、時間的間隔 (世代時間・発症間隔・潜伏期間など)についても同様に理解を深めた。公衆衛生学的介入についても、薬理学的・非薬理学的といった2種類の介入方法があることを確認した上で、エボラを理解する上で感染症疫学研究がいかに効果的であるかを包囲接種の有効性や実施方法を議論した研究や接触調査や隔離などの組み合わせによる有効性の検討を推定した研究などを用いて学んだ。
次に、後半では、感染症数理モデルの大まかな理解を第一の目的とした。とくに導入では、感染症疫学の特異性を十分に理解し、なぜ感染症数理モデルというものが必要なのかというところに踏み込んでいった。ここでは、「感染者-被感染者」の関係が生み出す従属性現象や感染日が通常不明であること、診断バイアス/確定バイアスについて改めて学び、それらが数理モデルを必要とする根本であることを知った。その後、数々のキーワードや数式、グラフを1つずつ丁寧に読み解き、感染伝播動態の記述 (SIRモデルと再生過程)・異質性・2種類の再生産数 (瞬間的再生産数、コホート再生産数)・平均二次感染者数と過分散・複雑ネットワーク・右側打ち切りバイアスと症例致命リスク・非薬理学的介入・ワクチンの効果についてなどの定量的な考え方の基礎の一部や適用についてそれぞれ理解を深めた。最後に、具体的な感染症数理モデル研究とその政策実装への関わり方について示すため、特に発表者の学生が研究/執筆したCovid-19やサル痘に関する論文またはCovid-19のリスク評価のため実際に政策決定レベルで提出された資料を紹介した。具体的には、(1) ワクチン効果に関する複数の論文や、(2) サル痘に関して性的接触ネットワークを解析しMSM集団内での伝播を分析した研究、(3) 医療逼迫指標が症例致命リスクに与える年齢層別の影響を分析した研究、そして (4) Covid-19の伝播性・病毒性に対する気温の影響を定量化したものについて、それまで学んだ感染症数理モデルの考えを踏まえて眺めていった。
エボラタームの行政分野では、専門家の先生によるご講演を実施しなかったため、普段以上に学生勉強会を充実させることを目指した。今回の中心的な話題である感染症疫学・理論疫学の分野で数多く論文を執筆している学生がメンバーであったこともあり、入門的な内容から非常に発展的で専門的な内容まで幅広く理解を深めることができる学生勉強会となった。感染症疫学がリアルタイムに、そして将来的に渡って国際的に公衆衛生へ貢献を求められる分野であると同時に、科学として非常に興味深い学問であることを理解していただけたと確信している。
文責
無相遊月・村山泰章
謝辞
報告書の締めくくりにあたり、お忙しい中善意でのご協力を賜りました浦田秀造先生、加藤康幸先生、また、学生団体の設立・運営に際し、たくさんのご支援と応援をして頂きました全ての先生に、心からの御礼を申し上げます。ありがとうございました。