2026trem2勉強会報告

J-Trops 2026 term2 勉強会報告

Universal Health Coverage

チームメンバー

勉強会運営責任者:髙木祐治(北海道大学医学部4年)

上原果子(大分大学医学部3年)、玉岡遊亀(熊本大学医学部3年)、廣幡絢子(岡山大学医学部5年)、大城健斗(熊本大学医学部6年)

勉強会概要

2026年第2タームでは、「Universal Health Coverage(UHC)」をテーマに、学生ワークショップと2回の専門家講演を実施した。Week1では架空の島しょ国を題材に限られた予算の中で「誰に、何を、どのように届けるか」を検討するワークショップを通しUHCの定義と基本的な考え方を学んだ。Week2では、JICA国際協力専門員の戸辺誠先生をお招きし、保健財政の基礎と、先生がフィリピンでご経験されたUHC達成に向けた案件に関しご講演いただいた。Week3では、アジア開発銀行(ADB)ヘルススペシャリストの渡部明人先生より、2030年に向けたUHCの世界的な進捗と課題、国際機関で働くためのキャリア形成についてご講演いただいた。本タームは、UHCを理念として理解するだけでなく、財源の集め方と分配、サービス提供体制、国際協力、そして国際保健のキャリアまでを一連の流れとして捉える機会となった。

勉強会の到達目標

  • UHCの定義である「必要な質の保健医療サービスへのアクセス」と「医療費による経済的困難からの保護」を説明できる。
  • JICAによる保健システム強化の事例から、UHCを現場で実現するための条件を考察する。
  • 2030年に向けたUHCの国際的な進捗と課題を把握し、国際保健分野の多様なキャリアを具体的にイメージする。

講演者

戸辺 誠 先生

国際協力機構(JICA)国際協力専門員

渡部 明人 先生

アジア開発銀行(ADB)ヘルススペシャリスト

勉強会日程

  • 2026年5月8日(金)Week1 学生ワークショップ「UHCの定義と最新の傾向」
  • 2026年5月11日(月) Week2 戸辺誠先生講演会「UHCに向けた世界の取り組みと日本の協力」
  • 2026年6月5日(金)Week3 渡部明人先生講演会「2030年に向けたUHCの潮流と国際保健のキャリア」

勉強会報告

Week1 学生ワークショップ

 2026年5月8日の学生ワークショップでは、制度上は全国民向け公的医療保険を導入しているものの、離島・農村部の医療アクセス、薬代・検査代、交通費、慢性疾患による継続的負担などの課題を抱える架空の「島国A」を題材とした。参加者は政府のUHC改革チームとして、拡充すべきサービス、優先する住民集団、経済的負担の軽減策とその理由を検討した。議論では、離島・農村部の一次医療強化、医療人材の配置、薬代・検査代や交通費の補助、窓口負担の軽減などが主な選択肢として整理された。また、離島住民、貧困層、慢性疾患患者、妊産婦・子どもなど、医療から取り残されやすい集団をどのように優先するかを考えた。効率性だけを追求して都市部に医療資源を集中させると、公平性が損なわれる可能性があることも確認した。

 勉強会後半では、WHOとWorld Bankによる Tracking universal health coverage: 2025 global monitoring report およびWHOの The world health report 2010: health systems financing: the path to universal coverage を参照し、UHCの定義、サービス提供と経済的保護という二つの柱、ならびに保健財政の基本的な考え方を確認した。

Week2 戸辺誠先生講演会:UHCに向けた世界の取り組みと日本の協力

 2026年5月11日のご講演では、世界に残る健康格差を出発点に、UHCと保健財政の関係、JICAによる具体的な協力事例について学んだ。妊産婦死亡率や医療従事者による介助分娩率には国家間の大きな差があり、同じ国内でも都市部と村落部、富裕層と貧困層の間でサービス利用に格差がある。フィリピンの事例では、診療費、医療機関までの距離、薬の入手などが受診の障壁となり、医療サービスを利用できても自己負担によって家計が困窮する問題が示された。 必要な医療を経済的な不安なく受けられるようにするためには、医療費の財源を利用時の自己負担に過度に頼らず、税や強制加入の健康保険料として事前に社会全体から集める仕組みが必要である。講演では、保健財政の機能を「財源確保(revenue raising)」「プーリング(pooling)」「サービスの購入(purchasing)」の3つに整理し、単に資金を増やすだけでなく、リスクを広く共有し、限られた資金からより大きな健康成果を生み出す制度設計の重要性が説明された。

 加えて、JICAの協力事例として、2012年から2017年にフィリピン北部のコーディレラ地域で実施された保健システム強化プロジェクトが紹介された。プロジェクトで地域の病院、保健所などの整備、医療スタッフへの研修などを通じて母子保健サービスの促進が行われたことが紹介された。成果を支えた要因として、UHC達成に向けた政治的意思、持続的な財源の確保が挙げられた。この講演を通して実際の協力事例とその成果を学ぶことで、UHC達成に必要な制度設計と実践の両面について理解を深めることができた。 

Week3 渡部明人先生講演会:2030年に向けたUHCの潮流と国際保健のキャリア

 2026年6月5日のご講演では、前半で国際職員としての働き方やキャリア形成についてご紹介いただいた。渡部先生ご自身のキャリアが紹介され、国際保健のキャリアは直線的なものではなく、現場経験、専門性の獲得、政策実務、国際機関での経験を積み重ねながら発展していくというご経験を紹介していただいた。また、国際職員の仕事は一つの専門性だけで成り立つものではなく、臨床、公衆衛生、研究、政策、マネジメントなどを組み合わせながら形成されていくというお考えも印象的であった。

 後半ではACT for UHC 2025レポートをもとに、各国がUHC達成に向けて掲げた政治的コミットメントが、実際の政策や行動にどの程度つながっているかが説明された。UHCは多くの国で国家保健政策の中心に位置づけられており、数値目標やモニタリング体制の整備も進んでいる。一方で、医療サービスのカバレッジ拡大や経済的保護には一定の進展があるものの、2015年以降は進捗が鈍化しており、現在のままでは2030年の目標達成は難しいことが示された。特に重要な課題として、国や地域、所得階層による格差が挙げられ、都市部と農村部、富裕層と貧困層の間には依然として大きな差があり、誰が医療から取り残されているのかを把握するためのデータも十分ではないことが示された。また、保健人材の不足、公的支出の格差、自己負担の高さ、市民参加の限界、ジェンダー分解データの不足など、UHC達成には複数の制度的課題が関わっていることを学んだ。

謝辞

報告書の締めくくりにあたり、ご多用の中、貴重なご講演を賜りました戸辺誠先生、渡部明人先生に心より御礼申し上げます。また、平素よりJ-Tropsの活動にご支援とご協力をいただいている皆様に、深く感謝申し上げます。

使用資料・参考

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