2020年11月6日にデングウイルス感染症タームweek2を行い、東京大学医学部国際保健政策学教授 橋爪真弘博士にご講演いただきましたので、ご報告いたします。
ご講演者
東京大学医学部国際保健政策学教授 橋爪真弘博士
気候変動と感染症
橋爪教授は、グローバルヘルス分野において感染症のみならず黄砂や大気汚染等がもたらす健康影響にも造詣が深く、さらには国連気候変動に関する政府間パネル第5次評価報告書の作成に携わっておられ、気候変動とその健康影響に関する権威であられる。
近年ではSDGsが提唱され、気候変動に対する具体的対策が求められ、各目標の達成に公衆衛生が果たす役割は大きい。菅内閣総理大臣は、第203回国会における所信表明演説にて “脱炭素社会実現” に言及され、いまや一億日本国民は等しく気候変動がもたらす社会的影響を理解すべき時である。また、令和3年には東京オリンピック・パラリンピックが予定され、斯様な国際的マスギャザリングがもたらすデングウイルス感染症等の輸入感染症に起因した健康リスクが指摘されている。
医療従事者となる我ら学生は、前述の背景から気候変動とその健康影響に関して深い理解が必要であり、その権威であられる橋爪教授にご講演を依頼したものである。
概要
本タームにおいては、デングウイルス感染症を主軸のテーマとした。本症は、ネッタイシマカやヒトスジシマカを主な媒介昆虫とし、気候変動と相互作用しながら国際的規模で人々の健康に甚大な被害を与えている。したがって、去る11月6日のJ-Trops講演会においては、気候変動と健康の関係性について学生が理解を深めることを目的とした。東京大学大学院医学系研究科・国際保健学専攻国際社会医学講座 橋爪 真弘 教授から、気候変動とその健康影響に関するご講演を賜ることとし、デングウイルス感染症をはじめとする節足動物媒介性感染症の蔓延に対して、気候変動がどのようにして影響を与えているか学生が理解を深めるものである。
本講演会では、はじめに橋爪教授の今までのキャリアについてご講演を賜った。日本での小児科診療のご経験、カザフスタンでの栄養疫学のご経験、バングラデシュ、ケニア、南アフリカでの気候変動がもたらす健康影響の研究等をご紹介してくださり、環境疫学における基本的な考え方や、国際医療におけるキャリアパスについて学ぶことができた。
気候変動対策では、緩和と呼ばれる気候変動の原因となる温室効果ガスの排出削減対策と、適応と呼ばれるすでに生じているないし将来予測される気候変動の影響による被害の回避・軽減対策とがともに必要不可欠であり、前者には地球温暖化対策推進法が、後者には気候変動適応法が対応している等、気候変動対策の基本的な考え方を学んだ。
また、ヒトスジシマカの生息域が本邦では昭和25年以降東北地方を徐々に北上し平成28年には青森県に到達しているということや、平成27年に公表された日本における気候変動による影響に関する評価報告書の健康分野では、節足動物媒介性感染症は熱中症と同様の高い重大性を有するとされていることを学び、気候変動に伴うデングウイルス感染症等の節足動物が媒介する感染症リスクを理解できた。
本講演会を通して、疾病と気候変動の関連性に関する基本的な事項に対する理解を深めることができた。また、環境疫学における基本的な考え方や、国際医療におけるキャリアパスについても学ぶことができ、将来国際保健に関わることを目指す多くの学生にとって有意義な講演会となった。